「紡ぐ・ビジョン・MATCH -まちの未来をソウゾウする-」
~活用事例~ その1(大学の講義・演習での活用)

「紡ぐ・ビジョン・MATCH -まちの未来をソウゾウする-」活用事例
(ゲームの内容・作成の経緯・データダウンロードはこちらのページをご覧ください)

大阪大学工学部 環境・エネルギー工学科

学部3年生演習講義「環境工学演習Ⅰ(地域環境の読み取り・環境向上のための提案)」

【基本情報】

日 時:2023年5月18日(木)、5月25日(木)

対象地:大阪府茨木市在郷町地区(中心市街地)

参加者:大阪大学工学部環境・エネルギー工学科 学部3年生学生12名

主催者:松本邦彦(文責)(大阪大学工学部助教)

運 営:松本邦彦、大学院学生2名

内 容:歴史的環境を有する地域の「地域らしさの継承につながる新たなライフスタイル・ワークスタイルの提案」

活 用:フィールドワーク実施後に地域の魅力・課題をワークショップにより整理した。その結果を踏まえながらゲームを活用して地域における将来のライフスタイルを検討した。その後、より検討エリアを限定したうえで再度ゲームを実施した。最終的には、提案したライフスタイルの実現のために必要となる、地域資源の保全や活用のあり方、各主体の取り組み、空間整備、運営体制や制度面などについて提案を行った。

【活用シーン】

大阪大学工学部環境・エネルギー工学科の学部3年生が参加した演習講義で紡ぐビジョンMATCHを活用しました。

本演習は大阪府茨木市の中心市街地に位置する在郷町地区を対象に、大阪都市圏に位置し旺盛な開発需要の影響も考慮しながら、地域の歴史的環境の保全・活用、そこでの暮らしを考えることを目的としました。

まずゲーム活用に先立ち、地域に適用されている都市計画の理解、フィールドワークの実施を通じて、地域の魅力・課題の整理を行いました。



それらの成果を踏まえ、後日紡ぐビジョンMATCHによる提案作業(第1回)を行いました。
1回目は今後の提案作業のヒントや軸となるアイデアをたくさん出すことを目的に実施しましたが、与えられたカードの内容から将来のライフスタイルやシーンを考えるというゲーム上の制約から、既存の常識や実現可能性などを一旦排除し、自由なアイデアを出すことができました。短時間で約20件のアイデアを出すことができました。
与えられたカードをなんとか使ってまとまるという制約により、日頃は考えもしない組み合わせでの検討、いつの思考範囲や常識を越えた提案などが可能となりました。
なお特別ルールとして、手札(ライフスタイルカード)の交換を一度だけ可能とすることで、難易度を下げる取り組みも試行しました。


投票により「ベストシーン賞」が決まり、各自がその投票理由について説明を行いました。
さらに、その他のシーンについての特徴も皆で確認し、対象となった地域資源やエリアの特徴を皆で共有しました。
各ビジョンシートの得点は、「自身が活用した枚数」+「他者からの投票枚数(写真内の裏向きカード)」で計算されます。



ビジョンシートの一例です。
長期の育児休暇取得が当然となった将来では、子どものための安全な食料調達がエリア内の公園的農地で可能となり、もちろん遠隔の農家さんからも、今より簡単に、かつ多様な契約が可能となるというものです。さらには、遺伝・生体情報を提供することで、子どもの病気の発生確率は示され、事前に発病の通知を受けることができるようになります。



もう一例です。
動画配信&サブスク全盛時代の学生の提案ですが、身近に暮らす地域の中で、リアルな音楽や芸能に触れることができるというものです。歴史的資源(町家)の活用もあわせて言及されており、今後の本提案に向けた足がかりとなりました。加えてパーソナルモビリティのカードの活用により、地域内に点在してしまっている資源へのアクセスの問題への気づきもありました。


さらにグループ討議終了後に、他グループの成果物の内容の共有を行いました。
ゲームの熱気が一旦冷めた状態で自分たちの提案を冷静に説明することにより、その意味や価値の説明に論理性が付与されるとともに、実現可能性などについても考える機会となりました。


後日、ゲームの成果をもとに、地域の将来像に関する提案の具体化作業がスタートしました。
在郷町地区の中でも、対象地をより限定する、テーマを絞る段階となったため、第2回の紡ぐビジョンMATCHはグループの検討内容に応じてエリアやテーマの制約を設けた上で実施しました。
これにより、より空間解像度の高い提案・議論を行うことができました。

第2回の結果をもとに、ゲームから得られたアイデアを組み合わせたり、アレンジしたりしながら、別途調査や検討をグループで行い、最終的には将来の在郷町地区で展開されるライフスタイルについての提案を行いました。シーンの提案にあたっては、その当事者(主人公)を具体的に設定できるなど、ゲーム活用したからこその内容の充実もありました。
提案の内容は、大きく描いた将来ビジョンの実現にあたっての障壁を具体化し、さらにそれを克服するための施策(空間整備、支援、規制や誘導、人々の活動のサポートなど)、多様な主体の関わり方などを、バックキャストで検討したものとなり、非常に論理的かつ説得力のあるものとなりました。




【ゲームを利用した学生の感想】

· 常識や型にはまった思考により真面目な堅苦しい発想しかできないところを、ぶっ飛んだアイデアを出すことができた。
· 検討したビジョンシートの内容は、普段自分たちが考えることのないような生活であることが多く、既成概念にとらわれずに様々な意見を考えることができました。
· カードが在郷町と関係なかったり、自分では思いつかないような内容であったりしたので、そのようなカードによって新しい提案ができた。
· まちづくりの提案をすることは初めてだったが、何も材料がない状態から始まったものの、このゲームを通して、柔軟な発想で提案できたと思う。まちづくりに関する知識がなくても何らかの提案を考えることができるのがこのゲームの良い点であると感じた。
· 0から1をつくるのではなく点と点を結ぶ形なので、アイデアが浮かびやすく楽しめた。また、ゲームの中でアイデアを共有できるのが良かった。
· 主人公を誰にするか、その人がどのような性格で、どのような生活をしているのかから考えることが、おもしろく楽しかったです。